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監督:ホール・バレット 製作:ホール・バレット 脚本:ヘンリー・グリーンバーグ、ホール・バレット、ジェリー・パリス
原作:ダリエル・テルファー 音楽:エルマー・バーンスタイン 撮影:ルシアン・バラード
キャスト:ロバート・スタック、ポリー・バーゲン、ジョーン・クロフォード、ロバート・ヴォーン、・ホィットマン
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カンタベリー・ホスピタルの精神病棟を舞台に、患者を尊重し開放的な治療(グループ・セラピーなど)を実践する斬新的なマクロード医師(ロバート・スタック)と精神病患者には、罰を与えながら厳しく接するべきと昔ながらの治療を主張する看護婦長テリー(ジョーン・クロフォード)の対立を軸に、精神病女性患者と看護師たちの日常を描いた映画。その主な患者となるのがローナ・メルフォード(ポリー・バーゲン)そして、その夫ジム・メルフォードにブレーク前のロバート・ヴォーンが扮している。
映画の冒頭、ローナが映画館で発狂し、舞台にまで上がって混乱している様子は圧巻で、背筋が寒くなるほどである。
ただ、映画としては、この年オスカーやゴールデングローブ賞にノミネートされたとは言え、ドキュメンタリーのようなタッチで刻々と患者たちの様子を追っているだけのように感じ、物足りなさを覚える。監督のホール・バレットはこの映画の10年後あの「カモメのジョナサン」を監督・製作している。
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この映画では今まで見たことの無いほどの見事な繊細な演技をするロバート・ヴォーンに出会う。すでに、「都会のジャングル」、「荒野の7人」で性格俳優としての実力を発揮していたのだが、これら二つはどちらかというと演じている役の設定がすでに悲劇的な要素を持っていた。しかし、今回は精神病を患い入院した妻を気遣い心配する夫で、ドクターとの話の中で、心の葛藤を、悲嘆を、心の中を刻々と表現している。拳銃があるわけでも、片腕がないわけでもなく、何の小道具もなく純粋に演技で悲惨さ表現している様は、観ていて、「ひょっとしてこの映画が成功していれば、ロバート・ヴォーンのその後はもっと違ったものになっていたのではないか?」と思わせるものである。なんとも表現が繊細でとても柔らかいのだ。特に、病院の妻に会った時の、妻の顔そしているが、まるで他人の雰囲気の彼女にアプローチしていく様は、複雑な心境、そしてそれをカバーしている様子、さらになんとか心を開かせようと努力する困惑の表情などなど全てが素晴しく目を離せない。 ジョン・マレー著の「クリティカル・スタディ」によれば、この本が書かれた1987年の時点で25年間ヴォーンの広報を担当していたジェリー・パムが、この映画でのヴォーンの演技にとても強く感銘し、「ヴォーンの映画における最良の演技だと考えている」としているほどである。同様にサム・ロルフも「イレブンス・アワー」での彼の演技に甚く心を動かされ、20年以上たってもそのシーンを鮮明に覚えているほどだというので、この「イレブンス・アワー」も見てみたいものだと思っています。やはり、彼の演技への関心は「ハムレット」からだっただけに、悲劇を演じさせると、役者魂に火がつくのですね。
